魂が震えた90分。高橋さんの言葉ひとつひとつが農家さんの心の声を表していた。

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11月9日、道の駅つの「一ノ宮交流館」にて、ポケットマルシェ創設者の髙橋博之さんが全国47都道県を巡りながら農業生産者と対話する「REIWA47キャラバン」を開催しました。

イツノマ代表の中川が、食べる通信の発行などで髙橋博之さんと交流が深かったこともあり、宮崎県では都農町で開催することになりました。

当日は講演に加えて、農の都を代表して河野正和町長と特別対談も開催、都農町の生産者を中心に農業の課題と未来の展望について考える、大変有意義な夜となりました。

河野町長から、何度も、髙橋博之さんの話に感動したと語っていたのも印象的でした。

以下、当日の講演・対談録を掲載します。

「農家」という生き方

学生に親の職業について聞いたとき、

「農家だが、継ぐことは考えていない。親の仕事が恥ずかしい。」と答えることは多いという。

江戸時代は8割が、農家か漁師で、1970年には10人に1人は農家であったが、

それが今は、国民の1,4パーセント、つまり140人に1人しかいない。

普段、農家に出会う機会も減り、子どもの中には「野菜は本当に人が作っていたのか。」と驚くこともあるという。

世の中には、誰かがしないと成り立たない仕事がある。

アフガニスタンで医療の普及を目指した中村哲さんはこう言った。

「誰もが行きたがらないところに行き、誰もしたがらないことが国の未来を作る。」

中村さんと農家さんが重なった。

スマホはなくなっても生きていけるが、

食べ物はなくなると私たちは生きていけない。

生きる源をつくっている農家さん。

いつしか、作るひと と 食べるひと は離れてしまった。

顔が見えるということ

東日本大震災のあと、一人の漁師にたくさんの寄付金が集まった。

東京に魚を卸していたその漁師さんは、

東京でお客さんと一緒に飲みに行き、家族や仕事の話をして顔が見える関係を続けていた。

震災直後、お世話になったお客さんは、漁師さんの顔を思い浮かべ

すぐさま助けなければと動いたそうだ。

顔が見えるということはとてつもなく大きな力を生む。

もっと、生産者と消費者を繋げたいと思い、食べる通信をはじめた。

ひと。全てはひと。

ポケットマルシェでもっとも売れている生産者は

一人の人間として消費者と接している。

どうしたらお客さんが笑顔になってくれるか、を考える。

ある漁師さんのお話。

お客さんが還暦のお父さんのために魚を送ると知って、

発泡スチロールに、「還暦おめでとう」とメッセージを書いた。

そして、また同じお客さんから連絡が来たとき、

次は拾った貝殻を箱に忍ばせた。

たった10秒の手間だが、もらった人はほっこり幸せな気持ちになり

また、この人と繋がりたい、この人から美味しいものを買いたいと思う。

ずっと、生産者と消費者は、できるだけ安く仕入れ、利用すべき相手であった。

でも、本当は新しい商品の値段をお客さんに相談したり、

どんな写真が美味しそうにみえるか話し合えるような関係性が理想だ。

認知症のおばあちゃんのお話。

ポケットマルシェを通して、生産者さんとやりとりをしていた。

たわいもない会話をして、新鮮なお野菜で料理をして生きる力をもらった。

これが、作るひと と 食べるひと の良質な関係性なのだ。

「関係人口」を増やす

「生きる」喜びを考えたときに、人の役に立ちたい人が東京には多く、

近年、地方に移住したい人は増えている。

東京に住む1人のコンサル女子。

お金には困らず、東京という日本一便利な環境で毎日深夜まで働いていたが、

ふと糸が切れたかのように、何のために生きているのか分からなくなった。

少し、田舎に行こう。彼女は農家を訪ねた。

1日中太陽をたくさん浴びて、畑仕事に勤しんだ。

毎日朝から夜まで動き続けた。

彼女の顔はいきいきし、東京に帰っていく姿はどこか楽しそうだったそうだ。

都会のエネルギーを巻き込み、

どのように都農を好きになってもらい、都農のファンを巻き込んで新しいものを生み出していくか。

つまり、関係人口を増やしていくことが

孤独と疲労に苛まれた日本社会に灯を照らす最善の解決策になるだろう。

最後に「生きる」を考える

日本は食べ物が溢れているのに、どうして自殺者が多いのか。

アフリカ人に聞かれたことがある。

私たちは、「生きる」ということを、

人間味のある生活を送ることを忘れてしまってはいないだろうか。

栄養補給のためだけの食事、

まるでロボットにガソリンをいれるかのような生活を送っていないだろうか。

ネルソンマンデラの言葉に「わが魂の指揮官になる。」とある。

自分の人生は自分で決める。

どうして自分の足で歩かないのか。

残りの人生、私たちは何に幸せを感じ、何に命をかけて向き合うのか。

社会、地域、個人、そして次世代に

胸を張って、自分たちの生き方を見せていかなくてはいけない。

もう私たちは、この問いに向き合わなければいけない時代を生きている。

【対談】(左から)山内大輔(まちづくり課財団)、河野正和(都農町長)、高橋博之(ポケットマルシェ)、中川敬文(株式会社イツノマ)

中川敬文さん(以下、中川)

私はまちづくりの会社として都農町に来ましたが、3蜜が避けられない仕事でした。

一旦仕事がなくなり、会社の方向をデジタル化を推進することに変更しました。

河野町長から農業生産者さんの販路拡大のお仕事を頂き、ポケットマルシェを出そうと高橋さんに相談しました。実際、生産者さんを廻ってところ、ZOOMでの会議が難しかったり、インスタで写真をアップすることも難しい状態でしたが、現在は約20の農家さんがポケットマルシェを使って消費者と積極的に繋がっています。

現在、都農町でもポケットマルシェやコンパクト農ライフに参加していますが、

課題は何だと思いますか。

※コンパクト農ライフ:https://thecampus.jp/compactagri

河野正和(以下、河野町長)

課題は農家の後継者がいないということもありますが、

一番は農業がいかに役に立っているのか、素晴らしい産業であるという認識が薄く、

誇りが持てていません。

良いことばかりではないですが、誇りのある産業であると気づくきっかけが少ないです。

ポケットマルシェをご紹介いただき、このしくみを通して、誇りを取り戻していただきたい。

高橋博之さん(以下、高橋)

やはり消費者とコミュニケーションをとり、外からの評価を聞かないと理解するのは難しいですね。

外と繋がって、はじめて自分の仕事はすごいと気づく生産者は少なくないです。

河野町長

道の駅を造った理由のひとつは、

田舎者は自信がないので、外の若者が、都農町は素晴らしい!!と言ってもらうことが

自信に繋がると思って造ったという経緯もあります。

山内大輔さん(以下、山内)

自分たちの作ったものがどう評価されるのか、

デジタルを通して、よりコミュニケーションができることになりました。

今後リアルに会いたくなるきっかけにもなるのではと期待しています。

中川

関係人口作りで有効な策はありますか。

河野町長

関係人口を増やすことは大切ですね。

自分のことを中心に考えず、お互い信頼関係を築くことで

消費者の皆さんの「生きる」ということを助けることができるのではないでしょうか。

関係人口を増やすためには皆で助け合うことが重要になってくると思います。

高橋

関係性を構築するのは時間がかかり、難しいですが、

関係は結果として生まれるものです。

結婚を前提としてのお付き合いは重いですよね(笑)

お付き合いを楽しむ、結果として移住してもらうという気持ちで接して行きましょう。

10年ほどかかるかもしれませんが、今後リアルに東京をでようという動きが起こるときに

都農にいこう、〇〇にいこうと思ってもらえる準備をしようという気持ちで。

河野町長

10年前に口蹄疫が起こり非常に厳しい時代を歩んできました。

この10年たくさんの方々に支えられ、元気になっていくことが一番の恩返しだと思っています。

また元気になって、今後もずっと恩返しをしていきたいです。

中川

都農町のふるさと納税のお金はどのように使っていきますか。

山内

医療と教育の問題にフォーカスしたいですね。

僕はキャリア教育に関わっており、

将来的には小中一貫でキャリア教育を徹底していく必要があると感じています。

しっかり教育体制を整えていくことをアピールしたいです。

また地域としっかり結び宮崎大学医学部と連携して人材育成に力を入れようとしています。

中川

キャリア教育が大切だとは私も実感していますが、

中学生と高校生にキャリア教育をする際、

どんな背中を見せたらいいのか、農家の魅力を伝えるにはどうしたらいいでしょうか。

高橋

農家は狭い環境で住み、近所付き合いが難しいなどマイナスなイメージがありますが、

学生たちが求めている様々な刺激やいろんな人に出会えるというものは

実は農家も同じなのです。

海外中を飛びまわり、世界のことを教えてくれる農家の友人はたくさんいます。

ものを売ることを通して、いろんな出会いがあるのが農家の仕事なのです。

中川

子どもに農業の魅力をどう伝えていけばいいですか。

河野町長

農業に限らず、素晴らしいオジサンが生きていることを伝えたいですね。

農業を通じて素晴らしい大人を育てていくことも考えたいです。

中川

生産者さんの売り上げが高い方の実践的なノウハウってありますか。

高橋

一人一人のお客さんに手紙を書いている人もいます。

手間はかかりますが、お客さんを知る濃厚なコミュニケーションがポイントですね。

あとは、実際上手に売っている人からものを買って、学ぶこともおすすめします。

どんなお客さんとやり取りしているのか研究してみるのもいいですよ。

中川

関係人口の人に何をしてほしいですか。

山内

ポケットマルシェのプラットフォームを活かしたい。

ふるさと納税とポケットマルシェのコラボなど考えたいですね。

高橋

子どもに1次産業をどう伝えるかも大事ですね。

最近の親は土は汚いから触るなと子どもに教えています。

田植えから、収穫して調理して食べるまで一貫して体験させたいですね。

もしかしたら、世界を守りたい!という子どもが増えるかもしれません。

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11月に入社した吹田あやかです。高橋さんとお会いしたのは、これが初めてでした。

高橋さんの言葉にはリアルが詰まっていました。

農家の後継者問題、大量の廃棄食物、東京一極集中など私たちが目を背けたくなる問題に真正面から向き合い、日本全国の農家さんと対話する高橋さんの姿に涙が溢れました。

私たちはいつしか「生きる」ということを当たり前に考えてしまい、「生かされている」ことを忘れてしまっています。

わたしは11月から都農町に移住し、農家さんからきれいな色の、みずみずしいお野菜をもらうことが多くなりました。

ある日、ズッキーニ農家さんを訪ねました。ズッキーニは少し粘り気があるほうがビタミン豊富で、農家さんの育て方によって味や食感、栄養分も全く違うそうです。農家さんはそんな話を楽しそうに、ちょっぴり自慢げにお話してくれました。

農家さんの笑顔を思い出しながら食べるズッキーニは格別で、自分のからだも喜んでいるのが分かりました。

顔が見えることで、その人に思いを馳せ、感謝を伝えたくなったり、何か力になりたいと思ったり。

そのような繋がりが、またひとつ、自分の人生に彩りを与えてくれた気がします。

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高橋博之 ポケットマルシェ創設者

●1974年岩手県花巻市生まれ。青山学院大学卒業。国会議員秘書を経て、2006年岩手県県議会議員補欠選挙に無所属で立候補して当選。2011年に岩手県知事選挙に立候補し、次点で落選。実業家に転身し、生産者と消費者を「情報」と「コミュニケーション」でつなぐ食べもの付き情報誌、「東北食べる通信」を創刊。2016年、生産者が農水産物を出品し、消費者が直接購入できる「ポケットマルシェ」をスタート。現在、47都道府県を巡りながら、農業の素晴らしさや課題を考える旅「REIWA47キャラバン」開催中。https://47caravan.com

ポケットマルシェ

全国の農家・漁師が出店する、ネット上のマルシェ。

現在、3500名以上の農家や漁師が登録しており、生産にまつわるストーリーとともに、それぞれが作る食べ物が並んでいる。コロナ禍で自宅で食事をする機会が増えるなか、ユーザー数は2020年の春と秋で比較すると4.5倍増の約23万人になった。

執筆:吹田あやか
撮影:松山かんき

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