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新時代の探究学習 – 地域と共に成長する高校生たちのスタディツアー

多くの高校で取り入れられている探究学習。教室の中だけでは得られない学びを求めて、全国の高校生たちが地域に飛び出し、まちづくりの現場で実践的な探究活動を行っています。今回は、宮崎県都農町と高鍋町を舞台に、地域と高校生が協働して取り組む探究学習の新しい形をご紹介します。

特に注目したいのは、従来の座学型の探究学習とは一線を画す、実践的なアプローチです。高校生たちは地域に飛び込み、実際の課題に向き合い、地域の人々と協力しながら解決策を見出していきます。この過程で得られる学びは、机上の学習では決して得られない貴重な経験となっています。

1.なぜ今、地域と連携した探究学習が注目されているのか

新渡戸文化高校のスタディツアー。山と滝とくだもののまち、都農町の不動滝で

教室を飛び出す探究学習の現状

文部科学省の調査によると、全国の高校で探究学習への取り組みが活発化しています。特に2022年度からの新学習指導要領の実施に伴い、「総合的な探究の時間」が必修化され、より実践的な学びが求められるようになりました。

しかし、多くの学校が「実社会との接点をどう作るか」という課題を抱えています。特に地方では、探究学習のテーマ設定や情報収集に約6割の高校生が苦労しているという現状があります。その背景には、地域資源や専門家との繋がりの不足、実践の場の確保の難しさといった課題が存在します。

地域課題解決型学習がもたらす効果

地域と連携した探究学習には、大きな可能性が秘められています。生徒たちは地域の実際の課題に向き合うことで、教科書では学べない実践的な問題解決力を身につけていきます。また、地域の人々との対話を通じて、コミュニケーション能力も自然と育まれていきます。

特筆すべきは、この学びが双方向的な成長をもたらすという点です。例えば、都農町での取り組みでは、高校生たちの提案をきっかけに、地域の方々の意識も変化してきています。「若者の視点で気づかなかった魅力を再発見できた」「新しいアイデアに触れて自分たちも刺激を受けた」という声が、地域から多く寄せられています。

高校生と地域の Win-Win な関係づくり

地域にとっても、高校生たちの新鮮な視点や発想は貴重な財産となります。「若者の視点が欲しい」「新しい発想を取り入れたい」という地域の声と、「実践的な学びの場が欲しい」という教育現場のニーズが、ここで見事にマッチングするのです。

この関係性は、単なる一過性の交流にとどまりません。例えば、新渡戸文化高校の生徒たちが提案した商品企画は、実際に商品化され地域の新たな特産品となりました。

まさに、探究学習を通じて、地域と学校が共に成長していく。そんな新しい関係性が生まれているのです。

2.実践事例に見る地域連携型スタディツアーの可能性

高鍋高校と東大生地方創生コンソーシアムで高鍋駅の提案を町長・町役場・観光協会に

高鍋での挑戦 – 駅を舞台にした高校生による地域活性化

高鍋町の玄関口である高鍋駅。この駅を舞台に、高鍋高校の生徒たちが画期的な取り組みを始めています。2024年4月の駅舎改修完了を前に、高校生たちが主体となって多目的スペースの活用プランを練り上げているのです。

特徴的なのは、東京の新渡戸文化高校がスタディツアーで高鍋高校の生徒たちと交流、一緒に高鍋駅の活性化を企画しました。提案は駅構内に設置する「漫画喫茶」「こたつスペース」といった居場所づくりから、高鍋のキャベツを使った「ご当地メンチカツ」の開発まで、地域の特色を活かしたアイデアが次々と生まれています。これらの提案の多くは、実現に向けて具体的な検討が始まっています。

東大生との協働による新しい学びの形

特筆すべきは、東京大学の学生たちとの協働です。「東大生地方創生コンソーシアム」に所属する大学生9名が、高鍋高校生とともにプロジェクトを推進。大学生ならではの専門的な知識と、高校生の地域への深い理解が融合することで、より実現性の高い提案が生まれています。

この取り組みは、NHK宮崎でも取り上げられ、地域からも大きな注目を集めています。

https://www3.nhk.or.jp/lnews/miyazaki/20240927/5060019397.html

高校生たちは、大学生との協働を通じて、自分たちのアイデアをより説得力のある形で提案する方法を学んでいます。

地域資源を活かした実践的プロジェクト

プロジェクトの特徴は、「誰もが集える居場所づくり」という明確なビジョンです。高校生たちは、不登校の生徒も含めた多様な若者が気軽に立ち寄れる空間を目指し、様々なアイデアを提案しています。

例えば、宮崎のソウルフード「肉巻きボール」や「餃子スティック」をアレンジしたオリジナルメニューの開発、地元食材を使ったカフェメニューの考案など、「食」を通じた地域の魅力発信にも取り組んでいます。これらの提案は、高鍋町長をはじめとする行政関係者からも高い評価を受けています。

新渡戸文化高校の取り組み – 地域企業とタッグを組んだPR戦略

新渡戸文化高校の1年生が、都農町の南国CBF河野社長に、自分でつくったvtuberのデモをプレゼン

高校生による地域企業へのプロポーザル

新渡戸文化高校は、従来の修学旅行のスタイルを一新し、生徒たちが自ら行き先を選ぶスタディツアーを実施しています。この取り組みは2024年のグッドデザイン賞金賞も受賞。都農町を選んだ生徒たちは、地域の3つの事業者(都農ワイン、南国CBF、ヴェロスクロノス都農)に対して、独創的なPR戦略を提案しています。

特に印象的なのは、南国プリンのブランディング戦略です。生徒たちは、キャラクターの「バニラちゃん」をVtuber化するという斬新な提案を行い、実際にプロモーション動画まで制作。また、自宅でプリンが作れる「マグプリン」企画は、その場で採用が決定するなど、具体的な成果も生まれています。

プロサッカーチーム「ヴェロスクロノス都農」に対しては、「選手のアイドル化計画」を提案。選手一人一人の個性を活かしたブランディング戦略は、元Jリーガーの選手からも高い評価を受けました。

地元中学生との世代を超えた協働

新渡戸文化高校の1.2年生が都農町のまちづくり部中学生に提案!

プロジェクトの特徴は、地元の中学生「まちづくり部」との協働です。高校生と中学生が一緒になって企画を練り上げる過程で、地域ならではの視点と外部からの新鮮な発想が融合。例えば、YARD1927(イツノマの本社兼まちづくり部の部室)を、中高生が集える駄菓子屋スペースとして活用する提案は、すでに実現に向けた準備が始まっています。

中学生からは「東京の高校生と一緒に企画を考えることで、自分たちのまちの可能性を再発見できた」という声が。また高校生からも「まちづくり部の中学生に会いたいからまた来たい」という声が上がるなど、世代を超えた継続的な関係性が生まれています。

京都市立日吉ヶ丘高校の実践 – 地域課題解決型ワークショップ

HOSTEL ALAで京都市立日吉ケ丘高校と都農町の若者と交流会

フィールドワークを通じた課題発見

4年連続で都農町を訪れている日吉ヶ丘高校。「越境」をコンセプトに、毎年20人前後の有志が参加し、2泊3日の濃密な探究活動を展開しています。「お兄ちゃんが行って絶対面白いって言われたから」「去年1年で来てどうしても今年も来たくて」など、校内での口コミで参加者が増えているのも特徴です。

生徒たちは町内を歩き回り、地域の方々との対話を通じて、まちの魅力と課題を丁寧に掘り起こしていきます。都農ワイナリーでの醸造工程見学や、地元生産者へのインタビューなど、教室では得られない生きた学びを体験していきます。

解決策の立案と提案

活動のハイライトは「シャインマスカット杯」と名付けられた企画コンペです。生徒たちは3チームに分かれ、8時間という長時間のワークショップに挑戦します。2023年度は「スタディツアーの企画立案」「まちづくり部の活性化」「耕作放棄地の活用」という3つのテーマに取り組みました。

特筆すべきは、アイデア出しの手法です。各チーム6-8人で100個のアイデアを出し合う「アイデア100」という手法を用い、質より量にこだわった発想の広がりを重視。その中からBEST5を選び、実現可能な企画へと昇華させていきます。

例えば耕作放棄地活用チームは、「収穫放棄地」という新しい視点を提示。とうもろこしの生産からポップコーンの商品化、さらには屋外映画館の運営まで、段階的な活用プランを提案し、審査員の教育長から高い評価を受けました。

Screenshot

これらの提案は、パンフレットやプレゼンテーション資料として形にされ、町長や教育長、地域の事業者の前で発表されます。高校生たちの斬新なアイデアは、毎年のように地域に新しい刺激を与えています。

3.スタディツアー成功のポイント

事前準備から実践、フォローアップまでの重要ステップ

スタディツアーの成功には、入念な準備が欠かせません。イツノマでは、オンラインでの事前学習や地域との調整、現地での活動計画作成など、きめ細かなサポートを提供しています。

特に重視しているのが「余白」の設計です。細かなスケジュールを詰め込みすぎず、生徒たちが地域と自然に交流できる時間を大切にしています。例えば、地域の方々との夕食会では、都農ワインを味わいながら(高校生はぶどうジュース)、気軽な雰囲気で対話が生まれています。

また、事前のオンラインミーティングでは、生徒たち自身の「やりたいこと」を丁寧に聞き取り、それを地域のニーズとマッチングさせていきます。「自分がやりたいこと」が明確になることで、現地での活動もより主体的なものとなっています。

地域住民との効果的な交流づくり

新渡戸文化高校と都農町内の経営者5人との交流会

探究学習の醍醐味は、多様な地域の人々との出会いです。HOSTEL ALAを拠点に、様々な形での交流機会を創出しています。

例えば、地域の経営者との「イケおじ交流会」は、毎回生徒たちに大きな刺激を与えています。20-30分ごとに席替えを行い、4名程度の少人数で密な対話を重ねていく形式は、生徒たちからも「一番印象に深かった」という声が多く上がっています。

また、松浦牧場での乳搾り体験や、高鍋町の持田古墳群見学など、地域の特色を活かした体験プログラムも提供。座学だけでは得られない、五感を使った学びの機会を創出しています。

成果の可視化と評価

活動の成果は、最終日のプレゼンテーションで共有されます。町長や教育長、地域の事業者の方々の前で発表することで、生徒たちは自分たちの提案に手応えを感じることができます。

特徴的なのは、提案の実現可能性を重視している点です。例えば、新渡戸文化高校の南国プリンのマグカップ企画は、その場で導入が決定。高鍋高校の駅舎活用案は、実際の改修計画に組み込まれるなど、具体的な成果につながっています。

また、活動の様子はSNSや地域メディアでも発信され、NHK宮崎や宮崎日日新聞などでも取り上げられています。これにより、生徒たちの取り組みが広く認知され、次の展開につながっているのです。

4.これからの探究学習とスタディツアーの展望

新渡戸文化高校の最終プレゼンを聞きに、HOSTEL ALAに集まった大人たち

自治体に求められる支援と体制づくり

探究学習の効果を最大限に引き出すには、自治体の支援体制が重要です。都農町では町のバスやワークショップ会場を無償提供するなど、具体的なサポートを行っています。

また、地域の事業者との連携も重要です。都農ワインや南国CBFなど、地域を代表する企業が高校生たちの提案に真摯に向き合い、実現に向けて協力する姿勢を見せていることで、生徒たちのモチベーションも高まっています。

持続可能な仕組みづくりのために

一過性のイベントで終わらせないことも重要です。新渡戸文化高校の生徒たちは、地域企業とのプロジェクトを継続的に発展させ、実際の商品開発にまでつなげています。

特筆すべきは、地域の中学生との継続的な関わりです。「まちづくり部」の活動を通じて、地元の中学生たちが高校生の探究活動をサポートする体制が自然と生まれています。これにより、外部からの刺激と地域の継続性が見事に融合しているのです。

イツノマが提案する新しい学びの形

イツノマでは、こうした実践の蓄積を活かし、地域に根差した実践的な探究学習プログラムを提供しています。HOSTEL ALAを拠点に、地域の人々との密な交流、実践的なワークショップ、そして成果発表までを一貫してサポート。「よそ者」の視点と「地域」の知恵を掛け合わせることで、新しい価値を生み出しています。

特に、以下のような特徴的なアプローチで、探究学習の質を高めています:

事前学習から実践、フォローアップまでの一貫したサポート

・地域住民との効果的な交流機会の創出

・実現可能性を重視した提案づくり

・継続的な関係性の構築支援

高校生の探究学習に地域の未来を重ね合わせてみませんか?イツノマは、皆様の地域での探究学習の実現をトータルでサポートいたします。スタディツアーの企画・運営から、地域との調整まで、お気軽にご相談ください。

詳しい内容やご相談は、以下のお問い合わせフォームからお願いいたします。

お問い合わせフォーム

これまでの実績と経験を活かし、それぞれの地域に合わせたオーダーメイドのプログラムをご提案させていただきます。地域と学校の新しい関係づくりに、ぜひイツノマの力をお役立てください。

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